大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

千葉地方裁判所 昭和35年(ワ)9号 判決 1961年12月20日

主文

一、被告水野谷義雄は、原告に対し、別紙目録記載の第二の建物を収去して、同目録記載の第一の土地を明渡されなければならない。

二、被告有限会社ヒツトは、原告に対し、右建物から退去して、右土地を明渡さなければならない。

三、右被告両名は連帯して、原告に対し、昭和三四年一〇月一日から右土地明渡済に至るまでの月額金八、〇一八円の割合による金員を支払はなければならない。

四、原告のその余の請求(被告〓田省三に対する部分の請求)を棄却する。

五、訴訟費用は、之を五分し、その一を原告の負担、その余を被告水野谷義雄及び同有限会社ヒツトの連帯負担とする。

六、本判決は、原告に於て、被告水野谷義雄及び同有限会社ヒツトに対する共同の担保として、金三〇〇、〇〇〇円を供託するときは、第一、二、三項について、仮に、之を執行することが出来る。

事実

原告は、

主文第一、二項と同旨及び被告〓田省三は、原告に対し別紙目録記載の第一の土地を明渡さなければならない、被告等三名は、連帯して、原告に対し、昭和三四年一〇月一日から右土地明渡済に至るまでの月額金八、〇一八円の割合による金員を支払はなければならない、訴訟費用は被告等の負担とする旨の判決並に仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、

一、別紙目録記載の第一の土地(以下、本件土地と云ふ)は、原告の所有である。

二、而して、原告は、約二〇年前から、右土地を被告〓田省三に賃貸し、同被告は、同土地上に、別紙目録記載の第二の建物(以下本件建物と云ふ)を所有して居たのであるが、原告不知の間に、右建物の所有権を被告水野谷義雄に譲渡し、爾来、原告の承諾なくして、同被告に右土地の使用を為さしめている。

三、仍て、原告は、昭和三四年九月二二日、書面を以て、右被告〓田省三に対し、右無断使用を為さしめて居ることを理由として、本件土地の明渡方を請求し、右書面は、翌二三日頃、右被告に到達した。

而して、右明渡請求は、右無断使用を為さしめて居ることを理由とする契約解除の意思表示を包含して居るものであるから、前記賃貸借契約は、右請求によつて、解除せられたものである。

仮に、右明渡請求に契約解除の意思表示が包含されて居ないとするならば、原告は、本件訴状を以て、右被告に対し、右無断使用を為さしめて居ることを理由として、契約解除の意思表示を為すものである。

従つて、本件訴状の送達によつて、前記賃貸借契約は解除されるに至つたものである。

四、然るに拘らず、被告〓田省三は、依然として、被告水野谷義雄に本件土地の使用を為さしめ、同被告は、之に基いて、同土地上に本件建物を所有し、又、同被告は、被告会社に右建物を賃貸し、被告会社は、之によつて、同建物に於て、パチンコ営業を営んで居るものであるから、右被告等三名は、孰れも、正当権原なくして、本件土地の占有を為して居るものである。

仍て、本件土地の所有権に基いて、被告人〓田省三に対し、本件土地の明渡を命ずる判決を、同水野谷義雄に対し、本件建物の収去による本件土地の明渡を命ずる判決を、同有限会社ヒツトに対し、本件建物からの退去による本件土地の明渡を命ずる判決を、夫々、求める。

五、而して、原告は、被告等の右占有によつて、賃料相当額の損害を蒙つて居るものであるところ、被告等の右占有は、被告等三名による共同のそれであつて、而も正当権原なくして土地を共同占有することは、違法であるから、被告等の右占有は、共同による不法行為を構成する。従つて、被告等は、連帯して、原告の蒙つている右損害の賠償を為すべき義務がある。而して、契約解除が為された当時に於ける賃料は、月額金八、〇一八円であつたのであるから、原告の蒙つて居る損害の額は、右賃料額に相当するところの月額金八、〇一八円の割合による額である。

仍て、被告人に対し、その連帯による、契約解除の為された後である昭和三四年一〇月一日から本件土地明渡済に至るまでの月額金八、〇一八円の割合による損害金の支払を命ずる判決を求める。

と述べ、

被告等の主張に対し、

被告水野谷義雄に本件土地の使用を為さしめるについて、事前若くは事後に於て、原告がその承諾を為した事実のあることは之を否認する。

と答へた。

立証(省略)

被告等は、孰れも、

原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とする旨の判決を求め、

答弁として、

一、本件土地が原告の所有であつて、被告〓田省三が、之を原告から賃借し、同土地上に本件建物を所有して居たこと、及び同建物が現在被告水野谷義雄の所有であつて、之を被告会社に賃貸中であることは、之を認める。

二、併しながら、本件土地を転貸するについて、原告の承諾のなかつたことは、之を否認する。

右転貸については、事前に原告の承諾を得て居たもので、仮に、事前にその承諾を得なかつたとしても、事後に於て、その承諾を得て居るものである。従つて、右転貸は適法且有効であるから、原告の為した無断転貸を理由とする契約解除の意思表示は、無効である。

三、而して、原告の為した契約解除の意思表示が無効である以上、賃貸借契約は依然として存続して居るから、被告等の本件土地に対する占有は、全部、正当権原に基く占有である。故に、それ等が権原のない占有であることを前提とする原告の本訴請求は、失当である。

四、尚、昭和三四年九月二三日頃、原告から被告〓田省三に対し、同月二二日附の書面による本件土地の明渡請求があつたこと、及び本件土地の賃料額が月額金八、〇一八円(答弁書に月額金八、〇一六円とあるは誤記と認める)であることは、共に、之を争はない。

と述べた。

立証(省略)

理由

一、本件土地が原告の所有であること、同土地上に本件建物が存在し、それが現在被告水野谷義雄の所有であること、及び同被告が之を被告会社に賃貸し、同会社が之に於てパチンコ営業を営んで居ることは、当事者間に争のないところである。

二、而して、被告水野谷義雄が右建物の所有権を取得したのは昭和三〇年九月中であつたことが、被告本人水野谷義雄の供述によつて認められ、又、右被告が被告会社に右建物を賃貸し、同会社が之に於てパチンコ営業を始めたのは、昭和三一年一〇月頃であつたことが被告会社代表者の供述によつて認められるのであつて、この事実と前記争のない事実とによると被告水野谷義雄は、右建物を所有することによつて、昭和三〇年九月中から、又、被告会社は、右建物を使用することによつて、昭和三一年一〇月頃から、夫々本件土地を占有し、且、現にその占有を為して居るものであることが認められる。

三、而して、右建物の前所有者が被告〓田省三であつたこと、及び同被告が原告から本件土地を賃借したこと(但し、その賃借の時期は、証人川口幹の証言によつて、終戦直前頃であつたと認められる)は、当事者間に争がなく、右被告が、被告水野谷義雄に、前記認定の頃、右建物を贈与して同被告がその所有者となつたことは、被告本人水野谷義雄の供述によつて之を認定することが出来、而も建物の譲渡は、特段の事情のない限り、その敷地の賃借権の譲渡を伴ふものと解するのが相当であると認められるところ、本件に於ては、特段の事情の存在したことについて、何等の証拠もないのであるから、右建物の譲渡(贈与)に伴い、その敷地である本件土地に対する賃借権も亦右被告に譲渡せられたものと解するのが相当であると認める。

四、然るところ、証人川口幹、同田中俊の各証言によると、右賃借権の譲渡について、原告は、事前に於ても、事後に於ても、その承諾を為したことのないことが認められるので、右賃借権の譲渡は無断譲渡であると認定せざるを得ないものである。被告等は、事前若くは事後に於て、原告の承諾を得た旨を主張して居るけれども、被告本人水野谷義雄、被告会社の代表者の各供述を以てしては、未だ、以て、右事実を認めるに足らないのであつて、他に、之を認めるに足りる証拠がないので、右事実のあることは、之を認めるに由ないところである。

五、而して、原告が、その主張の頃に到達の書面を以て、本件土地の賃借人である被告〓田省三に対し、その土地の明渡方を請求したことは、当事者間に争がなく、弁論の全趣旨によつて、その請求を為した書面(内容証明郵便たる書面)と同一文言の記載されて居る書面であると認められるところの成立に争のない甲第一号証によると、その明渡請求には、無断転貸を理由とする明渡請求の趣旨も亦包含されて居るものと解せられるので、右書面による明渡請求には、無断転貸を理由とする賃貸借契約解除の意思表示も亦包含せられて居るものと解するのを相当とすべく而も前記認定の事実に照して、その文言を観るときは、右書面に記載されて居るところの無断転貸なる文言には、無断譲渡の意味をも包含して居るものと認めるのが相当であると解されるので、結局、右書面による明渡請求には、無断譲渡による賃貸借契約解除の意思表示が包含されて居るものと認めるのが相当であると認められる。従つて、原告は、右書面による明渡請求を為したことによつて、右被告に対し、無断譲渡による賃貸借契約解除の意思表示を為したことになるから、右被告〓田省三の有した本件土地に対する賃貸借契約は、之によつて解除され、その契約に基く賃借権は、右書面の到達した日に消滅に帰したものといはなければならない。

六、併しながら、右被告の本件土地に対する占有は、その賃借権を被告水野谷義雄に譲渡した時に於て、既に、之を喪失したものと解されるから、右被告は、その時以後に於ては、本件土地に対する占有は、之を有しなかつたものであると認定せざるを得ないものである。故に、右の時以後に於ても同被告に占有があることを前提として為された、右被告〓田省三に対する原告の本訴請求は、全部、失当である。

七、而して、前記賃借権の譲渡が無断譲渡であり、而も之を理由として、契約の解除が為された以上、その契約の解除の為された日以後の被告水野谷義雄の本件土地に対する占有が権原のない占有であることは、多言を要しないところであり、而して、被告会社の本件土地に対する占有は、前記認定の事実によると、右被告の占有に基くものであることが明白であるから、右契約の解除の為された日以後のその占有も亦権原のない占有であることが明白である。

従つて、原告は、本件土地の所有権に基いて、被告水野谷義雄に対し、本件建物の収去による右土地の明渡を、被告会社に対し、本件建物からの退去による右土地の明渡を、夫々、求め得る権利を有するから、右被告等に対し、夫々右各明渡を命ずる判決を求める部分の請求は、孰れも、正当である。

八、而して、右被告両名の占有によつて原告が損害を蒙つて居ることは、多言を要しないものであるところ、正当権原なくして、他人の土地を占有することは、違法であるから、右被告両名の本件土地に対する占有は、違法であると云ふべく、而も、前記認定の事実によると、右被告両名は、正当権原のないことを知れる者であると認定し得られるから、その占有は、孰れも、故意に基く違法の占有であると云ふべく、更に、前記認定の事実によると、右被告両名の占有は、共同行為に基く占有であると認定し得られるので、その占有は、共同占有として、共同不法行為を構成するものと云はざるを得ないものである。従つて、右被告両名は、連帯して、原告の蒙つて居る損害の賠償を為すべき義務がある。

而して、原告の蒙つて居る損害の額は、賃料相当額であると認めるのが相当であるところ、前記賃貸借契約が解除された当時に於ける賃料の額が月額金八、〇一八円であることは、弁論の全趣旨に照し、当事者間に争のないところであると認られるので、その損害の額は月額金八、〇一八円の割合による額であると認定する。

右の次第であるから、右被告両名に対し、連帯して、前記契約の解除の為された日の後である昭和三四年一〇月一日から本件土地明渡済に至るまでの月額金八、〇一八円の割合による損害金の支払を命ずる判決を求める部分の請求も亦正当である。

九、仍て、被告水野谷義雄及び被告会社に対する部分の請求は孰れも、之を認容し、被告〓田省三に対する部分の請求は、之を棄却し、訴訟費用の負担について、民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条を、仮執行の宣言について、同法第一九六条を、各適用し、主文の通り判決する。

物件目録

第一、土地

千葉市栄町一九番地

一、宅地八七坪一合

第二、建物

千葉市栄町一九番地

家屋番号同町一九番

一、木造亜鉛葺二階建店舗兼居宅

建坪 六四坪

外 二階  一一坪八合

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例